7) 奇妙なデフの慣らし方法
A Proper Break-In Procedure for A Rebuilt Rear End


●予想以上に痛んでいたデフ内部
 フタを開けてびっくり。デフの内部は結構ひどい事になっていました。まず、ピニオンシャフトの磨耗が予想以上で加えて長年いじめられてきたせいでしょうか、サイドヨーク末端がツブれてもともとの断面径より広がっておりました。あと部品名称は不明ですが右側のポジトラパックを押さえる?役目をしているらしい「留め金」状の部品が飛び出して来ていました。左側はそれらしい部品がありません。どこに消えちゃったんだろうか?また、デフの歯面の当たり具合も「余りいい状態ではない」とはジャンクさんのTメカの談話。確かにあちこちに条痕の様なものが散見せられます。
 この時点で「取りあえずサイドヨークだけ交換してしばらく様子を見てみようか」という甘い考えは中止、「まあこの際だからデフごと替えちゃおうか」という事に相成りました。



これがミッドアメリカが送って来たサイドヨークとオイルシール。左右で長さが違うとは知らなかったです。ちなみにサイドヨーク末端のスナップリングは製品にくっついていました。
燦然と輝く「3 : 08」の文字。注文したのは「3.07」なんですが。デフも結局ミッドアメリカに注文しました。デフの専業店は全部断わられたからです。そしたら実際にはインディアナ州の "IKERD'S INC"というショップでリビルドされた品物でした。
左が新デフ。右が旧デフ。20年間御苦労さん。
当然新しいデフの内部はこの様に綺麗な訳です。惚れ惚れしました。ちなみにリングギア歯面の黄色いもんは何でしょうかね?初期潤滑に何か関係するのか?それとも当たりを見たのか?
ついでにリアエンド・カバーも清掃。左右のフレームへの取付け部のブッシュも交換。またデフそのもののマウントのラバーブッシュも交換。
ワーイ、デフがついたジョー!
いっちょうコレでバーンナウトかましたるかい!
と思った私でしたがそうはいかんかった。
何やら小難しいナラシの手順が必要なのだった。
 昨年晩秋にサイドヨークのガタが過大であるのを発見して「こりゃあ一刻も早く何とかしなくちゃなあ」と思いつつも実はこの2月まで多忙につき放置していました。その間あまりコルベットに乗らなかったので実害はありませんでしたが春になってヒマになった時に間に合うように、とサイドヨークだけ発注したのでありました。

 当初はデフごと替えてしまうつもりだったのですが、私にはかねてからミッションを4速の700R4に交換したいという希望があったため、そちらの作業を先に行って色々と走行テストなどを心ゆくまで行い、その上で適切なファイナルを見極めて満を持してデフ交換に行きたい、という風に冬の間に考えが変わってきたからです。

 で、サイドヨークが3月アタマくらいに届いたのでいつもお世話になっているショップ、ジャンクさんに持込んで「まずはサイドヨークだけ交換してチョーダイ」「よっしゃまかしとき」と言う訳でどれどれ、とリアエンドのカバーを外してみたところが上の写真。

 上に書いてある通り、これが結構状態が悪い。ピニオンシャフトなんかガタガタだしポジトラを押さえる部品が飛び出していたり消失したりしているのが実に気持ち悪い。ピニオンの歯面の状態もTメカによればそれ程いい状態ではないそうです。

 ここで私はジャンクの社長KさんとTメカという二人のプロフェッショナルとしばし相談、拱手瞑目の上、沈思黙考すること約3分(主として銀行の預金残高が気になった)。やがてクワッと目を見開いた私は、

「よっしゃ、もう頭に来た!デフごと替えたる!」

と叫んだのでした。だったら最初から回り道せずにデフごと注文しとけば良かったじゃ無いか、という結論になるのですがなかなかこういう「開けてビックリ」現象は予測がつかないものなのです。

 そうなるとファイナルのギア比には悩みます。近い将来700R4に載せ替えた上で発進加速トライやら最高速トライなどの実走テストをしてから良さそうなファイナルに決めようと思っていたのにテストなしで想像と電卓計算でファイナルを決めなければなりません。

 700R4のギア比や、やや小径となったリアタイヤ径などのファクターを考慮した結果ノーマルの2.87はヤメ、アイアンあたりで良く見かける3.55もヤメ。結局、

「よっしゃ、3.07で行こう!」


と決心、ミッドアメリカに注文いたしました。3.07のリアエンドを700R4と組み合わせる事によって発進加速及び中間加速はより鋭く爆発的になる一方で、700R4のオーバードライブ(0.7)は巡行時のエンジン回転を低く押さえるのに役立ってくれるでしょう。最高速はどうなるのかよー判らんです。単純計算では3速の1.0で時速220kmあたりでエンジンは吹け切り。で、4速の0.7でそれ以上のスピードを出すだけのトルクとパワーがZZ4にあるのかと言うとちょっと疑問。リンジェンフェルターの383ストローカーの460馬力くらいだったら可能かも知れませんが。こう書いていると「やっぱ3.55にするべきだったかなあ…」といささか後悔の念が押し寄せて参ります。だから先にミッションを交換したかったんですよね。

 注文してからデフが届くまでの6週間は本当に長かったです。予定では3月末から4月にかけて仕事がヒマになったらサイドヨークだけ交換したゴージャスジョージ号で京都に花見、初春の富士山見物、日本海に春の海視察、神社仏閣巡り、その他いくつかの華麗な計画を立てていたのですがデフがダメなので全て中止。部品待ちの間、リアエンドがバラバラのままの我がゴージャス・ジョージ号を眺めながら無聊をかこつ私でありました。「ねぇねぇ、ボクのデフまだぁ?」と数日ごとにメールで問い合わせる私にはミッドの担当、Eric氏もさぞかし辟易とした事でしょう。

 デフが届いたのが4月の20日頃。実際にはインディアナ州はベッドフォードの "IKERD'S INC"というショップでリビルドされた品物でした。ベッドフォード(Bedford)とはインディアナのどのへんじゃらほい、とブリタニカの地図を見ると州都インディアナポリスから南に下ること150キロくらい。おまけにブルーミントンの至近距離です。「ウーム、インディの近所でなおかつブルーミントンの至近距離でコルベットのデフのリビルドをやっとるとは、このイカードっちゅうショップは名前は変だが多分ホンモノの根性の座ったショップに違いあるまい。多分インディのレーサー達やブルーミントンに集まるコルベットオーナー達の厳しい要求に応え続けて来たシブいオヤジがやっとるショップのような気がして来たぞ。このパット・イカード(Pat Ikerd)っつーのは何十年もそんなアメリカのモータースポーツを支えて来たオヤジに違いない!そんなオヤジのリビルドしたデフなら1000馬力のエンジンでも1000万キロはもつに違いない!良かった、ミッドアメリカに注文して本当に良かった」と妄想を膨らませて勝手に都合良く解釈する私でした。

 ちょっと気になったのは「3.07」を注文したのに届いたデフには堂々と「3.08」と書いてあったという点です。ミッドアメリカのカタログによれば80〜82用のリアエンドには「3.08」というのは無くって「3.07」しか選べなかったんですが。まあアメリカの会社だし色々とあるんでしょう。一番心配だったのは〜79用のデフが間違って届いたんじゃないか、それでもってリアエンドカバーが合わないんじゃないか、という事でしたがこれも難なくクリアー。「まあパット・イカードのオヤジも分かってやってる事なんだろう、何しろヤツはアメリカン・モータースポーツを支え続けて来た男だからな」(既に私の頭の中ではそういう事になっとります)という事で余り気にしないことにしました。

 でも新品デフはフタをするのが勿体無い程の惚れ惚れとする綺麗さで私は至って上機嫌、そして各種ブッシュ類も新品に交換、楽しかるべきゴールデンウィークが始まる直前、無事ゴージャスジョージ号に新デフが搭載されたのでした。「さあ、ゴールデンウィークはこれでいっちょうブチかましたるかい!」と勢い込んでいた私のところにジャンクの社長Kさんがやって来て「ねえ本多さん、デフにこんな注意書きがついてたよ」と言いながらヒラヒラと赤い紙を渡してくれました。「ん?何ですか?召集令状?」と渡された赤紙をざっと一読するうちにみるみると自分の顔が青ざめて行くの判りました。



●奇妙なデフの慣らし方法
多分左の写真でも読めるでしょうが、

"Street vehicles should be driven at normal street driving speeds for approximately 5 to 10 miles...then stop and let it cool. Do this 2 times a day for the first 100 miles."

とあります。
変な話だとは思いませんか?何故一日に2回なんでしょうか?10回やったらいかんのでしょうか?この赤紙の最下段に

「この慣らし方法がわからんバカはウチのショップに電話してパット・イカードを呼び出してよーく聞きやがれ」

って書いてありますからアメリカ人でもこの慣らしが理解出来ない場合がままあるんでしょうか。

 顔が青ざめた、というのはウソですがそれにしても奇妙です。概訳すると

「まず公道上に乗り出す場合、通常の運転スピードで大体5マイルから10マイルを走ること。しかる後に停車してデフを冷やすこと。最初の100マイルまでの間にこれを1日に2回おこなうこと」

という意味内容になります。
 私はデフなんぞは交換したら最初の500キロくらいだけ連続しておとなしくフツーに走って、その時点でデフオイルを交換したらあとは好きにブチかましゃーいいんだ、壊れやしないぜベイビー、という風に理解していたのですが…。
 ジャンクの社長Kさんに聞いても「そんな方法聞いたことがない」と言います。トヨタの実験部に勤務する知人に聞いても「そんな話知らんなあ…」と言います。アメリカでは物理の法則が一部日本と違うのでしょうか?

 悩んだ私はコルベットのメーリングリストである "VetteNet" の皆さんに聞いてみました。すると驚いたことに少なからぬ数のアメリカ人が「その方法が正しい」と言う返答をくれるのです。どうやら「ヒートサイクリング」(Heat Cycling)という言葉が肝のようで、以下、結論をまとめてみます。

(1)新しいギアは馴染みが出るまでは沢山の熱を発生するんだて
(2)だから最初はデフがどえりゃー熱くなるんだぎゃー
(3)だからちょこっとだけ走ったら過熱しないうちに車を止めてデフを冷やすんだがや
(4)デフが完全に冷えてからまたちょこっとだけ走ってまた冷やすんだて
(5)最初の100ミャール(マイル/約160キロ)の間は根気良うこの作業を続けるんだて
(6)そうすると大体ピニオンとリングギアの間に適正なナジミが出てもうあんまし発熱しなくなるんだぎゃー
(7)そうしたらあとは500ミャール(マイル/約800キロ)くらいまでは時速100キロ以下で大人しく走りゃあて
(8)その後、デフオイルを交換するんだぎゃ。そうしたらもうバーンナウトぶちカマしてもええでよー

と、こういうリクツらしいです。最大に守らなければならないのは最初の100マイルに達するまでは10マイル走行ごとに車を止めてデフを完全に冷やしてからまた走り出さなければならないという点で、その意味ではイカードの赤紙にあった「1日に2回」というのは正確ではなく、デフが冷えてさえいれば別に1日に5回やってもいいらしい。まあイカードのおじさんも「ヒートサイクリングがどうのこうの」と言い出すと説明が面倒臭くなるしバカどもには理解出来んだろうと思って「何でもいいからとにかく1日に2回これをやれ。この説明で判らんバカはオレに電話かけてこい」と敢えてフールプルーフ的な内容を赤紙に書いたんじゃないかと思います。

 私も半信半疑ながら結局ほぼ上の手順に従ってナラシを終えました。でもこれはなかなか忍耐が必要でした。特に10マイル(16キロ)走ってから車を止めてデフが冷えるまでボンヤリ時間を過ごすというのがせっかちな私には苦痛でした。ただ最初の10マイル走ったところで車を止めて地面に寝っころがって手を伸ばしてデフケースに触ると確かに「おー、熱ッチッチ!」という感じがあり、そして100マイルに達した頃に同じことをやってもそんなに熱くなかったのでやはりこのナラシ方法には意味があると言えそうです。100マイルを過ぎてから300マイルまでは一般国道をボンヤリ走りまして、残り200マイルは名古屋高速という環状の高速道路に入りバカになりきって何時間もグルグルと定速走行したり途中で東名阪高速道に入って時速80〜100kmキープで走ったりして過ごしました。本当に忍耐の要る作業でした。

 デフのナラシを開始した時に「000」に合わせたトリップメーターが「500」マイルを越えたのを確認した私は忘れもしない5月2日、ゴールデンウィーク休みに入る直前のジャンクさんに駆け込んで「Tさん、Tさん!デフデフ、早くデフオイル交換して!」と叫びました。「えっ、もう500マイル走ったの?」とTメカが半ば呆れるように言うのを聞こえないふりして「嬉しいなあ、ナラシが終っちゃった、ランランランラン…」とコルベットの周りをスキップしているうちにめでたくデフオイルの交換も終りまして「よし、いっちょうブチかましてやるか」とあてのない旅に出た私でした。

●3.08の真実
 ここまで辛抱強く読んで下さった方は「で、その『あてのない旅』でブチかました結果はどうだったんだ?」といい加減結論が知りたいことでしょう。では申し上げます。3.08は最高です。81年式コルベットのファイナルが歴代でも最も高い2.87(2.78だったかも。ATとMTでも違う)だと言うのはGMが当時の時代背景を考慮して性能を犠牲にして燃費を重視したという事ではないかと思います。何しろのエンジンは歴代C3の中でも最も低出力の部類なのにファイナルは最も高い部類なのですから。だからファイナルをちょっと低くしてやるととても走りに元気が出て来ます。計算では2.87と3.08では回転比で9%程度の差ですが、私はこの数値がはっきりと発進加速、中間加速に現れていると感じました。もう慣れてしまいましたが。ワインディング・ロードにおいてはコーナーからの脱出加速、通常道路においては追い越し加速に明らかに鋭さが加わりました。3.55だともっと鋭くなるでしょうが、例えばZZ4クラスのエンジンの場合、1速でアクセルを踏込んだら多分スピンの嵐ではないかと思います。またミッションがTH350のままでは高速道路において3速の1.0で吹け切ってしまって走り難いだろうと思います。時速100キロでの定常走行、なんてのもエンジンが3000回転以上も回ってしまって走り難いでしょう。一方700R4の様に4速が0.7だとその当たりのネガティブが帳消しになって逆に面白いかも知れません(この点においては私はまだ3.55の方が面白かったかなあ、とちょっとだけ思っています)。またリッチモンドの6速ミッションだったらオーバードライブもある事だし相性がいいのではないでしょうか(と云っても1速では凄いことになると思います)。

 そんな訳でもし80〜82あたりのオーナーさんでデフが疲弊してしまったので交換したい、という方がおられましたら私としてはノーマル(2.87近辺)のギア比ではなく3.08をお薦めいたします。コルベットを楽しむ上で万人向けのギアレだと思います。

●最後に
 それでも実は今回のデフのナラシ方法には「妙な話だなあ」という感覚が少し残っています。日本では全然行われてなくてアメリカでは当たり前の様に行われている方法。不思議に感じるのが普通でしょう。どうしてもある種類の疑念が心に湧き起こるのを禁じ得ません。それは…、














おいアメリカ人、
ギアの精度がちーとばかし
悪過ぎやせんかい?







当HP内の以下の関連記事も御覧下さい

→ 3・VetteNetのメールを読む--23) 正しいデフの慣らし方法


2001年6月記