1-3.3: なぜ君はそんなにスポンジーなのか?
The mystery of a soft pedal

●それでもまだペダルが柔らかい
 さてブレーキローターもコンディションも良く、キャリパーもステンレススリーブに交換したらいい加減C3のブレーキも良くなってくれてもよさそうなもんですが「それでもまだペダルが柔らかい」という人がいます。ディスクローターに邪悪な振れが見られず、キャリパーからの忌わしいリークもなく、そしてエア抜きをしても憎むべきエアが出てこないようであれば次に疑うのはマスターシリンダーという事になります。


●マスターシリンダーの構造

 左図がマスターシリンダーの断面図です。C3の場合エンジンフードを開けますと運転席の前、ブレーキブースターの前に取り付けられています。構造的には当たり前のマスターシリンダーです。ブレーキを踏むとリンクでもってマスターシリンダー後端のプッシュロッドが押されてマスターシリンダー内のピストンを押して勢い良くブレーキフルードをキャリパー方向に押し出す、というものです。水鉄砲と同じですね。何の変哲も無い仕掛けですがC3の場合困った事にどうやらピストンシールが弱いらしいのです。C3のマスターシリンダーの場合、図の通りプライマリー、セカンダリーの各ピストンあたり2箇所ずつピストンシールがあるのですがこれのシール性能が悪くブレーキを踏んで圧力をかけるとそのリップ部分から横漏れをおこすと言われています。本来キャリパー方向に押し出されなければならない筈のフルードがピストンのシールをすり抜けて後側に流れてしまうのですから規定のブレーキ圧が出ず、ソフトなペダルとなる訳です。
 ディスクローターに異常がなく、キャリパーからの漏れもなく、マスターシリンダーを覗いてみても別にフルードは減っていない、それなのにブレーキペダルがソフトでブレーキの効きが悪いという場合はこのマスターシリンダーのピストンシールに問題のある可能性が高いです。"How to Restore Your Corvette"にもこのシールはリークしやすいという事が書いてありました。もともとすぐボロくなりやすい上に、ブレーキフルードに混入した小さなゴミによってシールのリップが傷つけられるという例も多いとのことです。これを避けるためには頻繁なブレーキフルードの交換が効果的だとも書いてありました。
 私自身、「どうエア抜きをしてもどこからもエアは出てこない。なのにペダルがソフトでブレーキの効きが悪い」という症状に困った事がありました。「もう訳がわからんワイ」とこの時にヤケクソでマスターシリンダーを交換しました。そうしたらペダルの踏込み固さがほぼ正常なものになったのです。ですから同様の症状に悩んでおられるC3オーナーの方はマスターシリンダーのシールがダメになっている可能性があります。マスターシリンダーの交換、というと結構費用もかかる事なのでなかなかお勧めしにくいのですが一度ご検討をされてはいかがかと思います。
 ところで最近の話なのですが知り合い所有のC3にちょっと乗った時「信号待ちでブレーキを踏んでいるとペダルが段々沈んでいきついには底付きする。そしてクルマは前に進み出す」という恐怖の体験をしました。これも明らかにマスターシリンダーのシールがやられていると思われます。このクルマにのるコツは信号待ちではPレンジに入れてブレーキは踏まない、というものでした。マスターシリンダーの交換は多少の費用はかかりますが、命の値段よりは安いという風に考えるしかないようです。


●C3のブレーキラインの流れ

 以下オマケです。ここでついでですからC3におけるブレーキフルードの流れをちょっと見てみましょう。マスターシリンダーはエンジンフードを開けると運転席の真ん前にあります。マスターシリンダーの後ろにあるタンク状のものはマスターバック。バキュームでブレーキ踏力をアシストする仕掛けです。前出の断面図の通りマスターシリンダーの油圧系統は2系統に分かれており油槽も2つあります。後ろの油槽がリアブレーキ用、前の油槽がフロントブレーキ用です(ピストンは後ろ側をプライマリー、前側をセカンダリーと呼ぶようですが)。で、ブレーキを踏むとマスターシリンダー内のタンデムに連結されたピストンが前進し、マスターシリンダーの横に開けられた2つの穴からブレーキフルードを勢い良く押し出す訳です。図の通りマスターシリンダーからは前用、後用の2本のブレーキチューブが出ている訳ですがこれを辿っていくと下側に落ちていって左フレーム上の「コンビネーションバルブ」というやつにいったん入って行きます。このコンビネーションバルブを通過して油圧は前と後に振り分けられる訳ですね。当たり前ですね。



 ところでこのブレーキラインの中間にある「コンビネーションバルブ」ですがマニュアルなどを見ると「プロポーショニングバルブ」としての役目を果たしているもののようです。プロポーショニングバルブといえば普通は前後ブレーキの効き具合の差を調整するものですからC3でもこれを行っているんでしょう。仕掛けは全く判りませんが。後端に調整用ナットもあるようですし多分工場で調整してくるんでしょうか?私はこれをいじったという人の話を聞いた事がありませんので良く判りません。
 それよりも私が重要だと思うのはこのコンビネーションバルブには「前後のブレーキ油圧の差を知らせる回路がある」という点です。コンビネーションバルブにはマスターシリンダーからやってきた前用のブレーキラインと後用のブレーキラインが入力される訳ですがその両者の油圧回路を隔てる部分に「スイッチピストン」と言うものが入っています。コンビネーションバルブの構造上このピストンは「前側ブレーキラインと後側ブレーキラインに圧力差があった場合にのみ動く」という事になります(図を見て下さい)。で、これが動くと「圧漏れ警告スイッチ」の「スイッチピン」に触れて押し上げます。するとスイッチが入って通電して運転席ダッシュボードのブレーキ警告灯が点灯する訳です。

 ですから「サイドブレーキをひいてもいないのにブレーキを踏んだら警告灯がついた」という時は充分注意して下さい。それはほぼ間違い無くブレーキラインのどこかでリークが始まっている事を示しています。
 私もこれを体験しました。ブレーキをググーッとかけるとダッシュ上の警告灯が「ボワーッ」と灯いて、ブレーキを離すとフッと消える、という事が何度かありまして「超常現象?」と不審に思いつつそのままにしておいたら或る日、ブレーキがスコーンと抜けるという臨死体験をするにいたった訳です。この「ボワーッとついてまた消える」というところがミソでこの段階で気が付いて手を打てば臨死体験は回避出来るであろうと思われます。ショップマニュアルを読んでおりますとこのスイッチの働きとして決定的な圧力差がある時は「点灯しっぱなしになる」みたいな事が書いてあります。という事は「ボワーッとついてまた消える」という段階はまだ決定的なリークに至っていない訳です。私の場合を思い出してみても普通の軽いブレーキングでは警告灯は点灯していませんでした。キャリパーのシールは傷んではいたものの普通のブレーキングでは大丈夫で、強いブレーキングの時のみ内圧に耐えかねてジワッと漏れるくらいの痛み方だったのでしょうね。この段階で「この警告灯は何かのマジナイだろうか?」とボンヤリしておらず、早めにキャリパーの点検などに思いが至っておれば私はブレーキが抜けるという恐怖体験をせずに済んだはずなのです。

 もしあなたがブレーキング中に警告灯が点灯、という体験をしたらすぐマスターシリンダーのフタを開けてフルードの量を確認して下さい。それでどちらかの油槽のフルードだけが極端に減っている、という様な事があれば減っている方のブレーキラインにリークがあると考えられます。私の場合は前がほぼカラッポでした。そんなになるまで気が付かなかった私の脳味噌もエンプチーです。情けなかったです。そこで私はまずタイヤハウスにゴソゴソ手を突っ込んでキャリパーを無造作につかんでみました。「ウァッチッチ!」正常に動作している夏のキャリパーはどうやら大変熱いようです。死ぬかと思いました。で、反対側のキャリパーを用心深く触ってみるとキャリパー本体がベットリとブレーキフルードで濡れておりました。ホイールの内側、タイヤの裏側なんかも結構ベットリです。この時私は「この世にはフルードの漏れるキャリパーがあるのか・・」という事を初めて知ったのです。まったく今思い出しても冷汗が出てきます、アレ?これと同じ事、前のページでも言ってますね私。まったくトシをとると繰り言が多くなって困ります。でも私はそれ以来、コルベットに乗る前には必ずマスターシリンダーのフタを開けてフルードの減り方に何か怪しい兆候がないかどうかを確認する様になりました。厳密に言えば水分を吸込む原因となりますのでマスターシリンダーのフタは余り開けない方がいいのです。でも命の惜しい私はセオリー無視で毎回点検しています。その分、フルードの交換サイクルを早くしています(と言っても10ヶ月に1回くらいですが)。

 もし警告灯が点灯するにもかかわらずフルードの減りが大した事ない場合はリークが非常に初期段階にあると考えられます(あなたは運のいい方ですね)。一輪ずつタイヤを外してキャリパーをよーく観察しましょう。穴の開く程観察しましょう。フルードの滲み程度のリークはキャリパー表面に「黒っぽいシミ」の様な痕跡を残しますのでそれが目印となります。もしキャリパーのリークが見つかった場合はもう一度前のページを読んでいただいてどうすべきかじっくりと考えてみて下さい。私の個人的な意見としてはもし予算的に都合がつくのならこの時点で抜本的な対策を講じた方が長い目で見て良いと思います。その理由は他のキャリパーも年齢は同じなのでヤレ具合はほぼ同じと考えられるからです。よってその時点でダメなキャリパーは1個だけだったとしても残り3個に不具合が現れるのは時間の問題と考えられます。だから1個だけキャリパーを交換してもブレーキ圧力は他のキャリパーの弱いピストンシールめがけてその応力を集中させようとするため、次から次へとモグラたたきのように他のキャリパーに不具合があらわれる可能性は高いです。費用のかかる事を無責任に言うようですがもしそのC3に長く乗られるつもりならば私はキャリパーの全交換をおすすめします(但し買ってすぐダメになった、という風に経歴のつかめているキャリパーの場合は単品交換で可です)。この時についでにローターも調べて結果が思わしくなければ前々ページに書いた通りローターの交換も視野に入れるべきでありましょう。これは費用がかかりますが。ここらの判断はあなたがどれだけC3に乗り続ける事に価値を見い出しているかによります。

 最後はエア抜きに関するC3固有の事情について次のページを御覧下さい。