1-3.1: なぜ君はそんなにエアばかり噛んでいるのか?
Why do the calipers suck air so often?

●ブレーキのエア抜きにはあきあきした!
 C3のオーナーの方で「何度ブレーキのエア抜きをしてもひと月もしたらまたエア抜きをする破目になる」という経験をされた方も少なくないのではないでしょうか。私もそうでした。エア抜きをやると「ブチブチブチ・・」とエアが出てきます。「これでスポンジーなブレーキとはおさらばだぜ!」と大喜びでいられるのもつかの間、暫くするとまたペダルがフニャフニャして来ます。半信半疑でエア抜きをしてみるとまた「ブチブチブチ・・」と結構な量のエアがブリーダーから排出されるのが透明ホースごしに観察出来ます。「君は一体どこから来たの?」と驚いてしまいます。ブレーキがフェードする様なサーキット走行まがいの事もしてないし、ただ私は漫然と普通に走っていただけなのですが・・。
 もしあなたがこのような症状に悩まされているとしたらキャリパーやマスターシリンダーに疑惑の眼差しをむける前にまずディスクブレーキローターの点検をされる事をお勧めします。意外な事にC3の場合、ディスクローターがエア噛みの原因になっている事が多いのです(勿論キャリパーピストンのシールが弱っている事も原因ですが)。私の場合もキャリパーを替えたりマスターシリンダーを替えたりしてもエア噛みに関しては芳しい結果は出ませんでした。ところがディスクローターを4枚全部交換したら「ピタッ」とエア噛みの症状がなくなったのです。お陰さまで今では積極的で明るい人生を過ごしています。


●なぜローターがキャリパーのエア噛みの原因となるのか?

 左の図はクルマの正面側からブレーキローターを見たものです。実際のC3でこんなにローターが振れていたらオオゴトで、これ位ローターが振れるのはベアリングの破壊くらいしかなく、もしそうだとしたらその時あなたの命は風前の灯となっているはずですが、これは説明の為にわざと大袈裟に描いたものと御了解下さい。

 C3のキャリパーピストンの裏側にはバネが隠れており、ブレーキをかけていなくてもこのバネの力でピストン及びブレーキパッドは常にディスクローター方向に押し付けられております。
 ここで、ローターが何らかの理由で左図の様に「振れて」動いているとします。するとローターの回転によって何が起こるかと言うと、

1)ローターの「振れ」分ピストンは押し戻される

2)ローターの「振れ」が反対方向に行くとピストンは裏のバネの力でローター側にせり出してくる


 つまりローターの「振れ」によってピストンはブレーキをかけていない状態でも常に「ピストン運動」を強いられている訳です。このピストン運動がローターの回転数に依拠するものである事を考えるとこれは結構なサイクルのピストン運動です。この高速ピストン運動(ポンピング運動)こそがピストンのオイルシールの横をエアがすり抜けてキャリパー内に侵入してくる原因であるとされています。
 「されています」というのはアメリカ人の間ではこれが定説になっているからです。私自身もブレーキローターを全交換する事によってそれまで悩んできたエア噛みをほぼ撃退出来ましたので、これは恐らく本当でしょう。


●なぜローターが振れるのか?
 ローターが振れる理由は次の3つの原因による例がほとんどでしょう。

1) ローター自身が歪んでいるか偏磨耗している
2) ローターがハブにきちんと密着して取り付けられていない
3) ハブベアリングにガタがある

※絵は全てオオゲサに描いてあります

1)ローター自身が歪んでいるか偏磨耗している
 最初はきちんと要求精度内に収まっていたローターも長年使用されて苛められているうちに段々歪んだり偏磨耗したりします。このどちらもローターの「振れ」となってキャリパーピストンに無用のポンピング運動をさせる原因となりますのでまずはローターが変形していないかどうかを調べて下さい。
 ローターの歪みを調べるのに一番正確なのはダイヤルゲージを使用する事ですが余り一般的ではありません。あなたはダイヤルゲージを持っていますか?(私はシチズン製という珍しいダイヤルゲージを持っていて昔は良く使っていたのですが今回あらためて探してみたら壊れていました)またローターの振れを見るのには一般的なマグネットベースではダイヤルゲージを固定出来ません。片側が「バイスグリップ」になったフレキシブルホルダー付きのジグでゲージを固定するのですがそんなもの誰が持っていますか?(私は10年以上前、オートバイのエンジンのカムプロフィールを測るのにこのタイプのベースというかゲージホルダーを一度使用した事があるのですが大変便利でした。でも当時アメリカ製で2万円以上していてとても買えるものではありませんでした。通常のマグネットベースは6千円くらいだったと思います)。
 でも安心して下さい。頻繁なブレーキのエア抜きに悩まされている様な方のディスクローターはゲージなど無くても目視確認で十分歪みが確認出来る可能性があります。私がそうでした。方法は以下の通りです。

(リアの場合)
・リアをジャッキアップする(必ずウマをかける)
・タイヤを外す
・ハブボルトにダミースペーサーを挟んだ上でナットを締め付ける
※これは5本のうち3点くらいでいいです。ディスクローターがハブにきちんと押し付けられればいいのです
・エンジンをかけてDレンジに入れる
・回転するローター外縁部を凝視して振れていないかどうか見る

私の場合、この方法でディスクローターの端が「みよ〜んみよ〜ん」と振れているのがはっきり目視確認出来てしまいました。そんなディスクローターは論外なのです(ディスクローターに要求される精度についてはマニュアルのページを参考にして下さい)。「これが原因だな」と判断した私はついにディスクローターの交換へと踏み切った訳です。その結果は前述の通り満足の行くものでした。
 フロントの場合は私はやってないのですがフロントをジャッキアップして同じ事をやれば判断出来るのではないかと思います。その場合キャリパーは外さないととても手でローターをくるくる回せないでしょうね。私の場合はフロントのローターに結構ひどい「かじり条痕」があったので何の検査もせず無条件で交換することにしました。

※あと、「スペーサーを入れてハブナットで締め付ける」というのはローターのリベットがすでに取り去ってあるクルマの場合です。ローターがリベットで固定してある場合はこの作業は不要です。でもエア噛みに悩まされているC3でローターがリベット固定の新車時のまま、と来たら結果は調べるまでもないのではないでしょうか?




2) ローターがハブにきちんと密着して取り付けられていない
 これに関しては「そんな事ってあるの?」と思われる方もおられるかも知れません。私もちょっと半信半疑のところがあります。ただ何人かのアメリカ人からこの話を聞きましたので御紹介する訳です。
 工場をラインオフしたばかりの新車のC3のディスクローターはハブに対して「リベット止め」になっております。だから基本的にはローターだけ外す事は出来ませんしそもそもローターとハブ(左図ではスピンドル)の間に不要なクリアランスはない訳です。但し経年劣化によって、「ハブベアリングの交換」もしくは「ディスクローターの交換」などの作業をする必要があった場合そのままでは部品の交換が出来ませんので当然リベットを破壊する事になります。リベットを取り去ってからはローター自身はハブとホイールの間で「共締め」される訳ですが、ここでローターのはめ込み方が悪いと微細なすきまが出来てこれが問題になってくるらしいのです。恐らくかなり微細なすきまなのでしょうがそれがローターを振れさせる原因になるのでしょうね。
 ただ不思議なのは日産などの国産車を見てみますとブレーキローターなんか共締めのサンドイッチ方式のやつなんかいくらでもありますね。だからといって「ローターの組付けが悪いからエアを噛んだ」なんて話は聞いた事がありません。
 それから察するにC3のブレーキは基本設計が1965年か何かですからそこらの工夫が足りなくて「ハブ外径とローター内径の寸法差がでかい」のか「ハブボルトの貫通穴が異常にでかい」のかそれとも他の要因なのか理由は良く判りませんがローターをパコンとはめた時に精度の出にくい構造になっているのではないでしょうか?ホイールなんかでもハブ側のインローとの合わせが悪くてセンターの出にくいやつがありますよね?そんな事情じゃないかと想像する訳です。
 リベットを取ってしまったローターの正しい?組付方法は以下の通りだそうです。これはGregory Smithさんというアメリカのコルベットばっかりいじっているプロのメカニックの人に聞きました。

1)ローターを注意深くハブ側にはめる
2)この時点でハブボルトにナットをはめて締め込んでローターをハブに密着させる
3)その状態でキャリパーを取り付ける
4)おもむろにナットを外す
5)おもむろにホイールを装着する

 ホイールを取り付ける前に一度余ったナットでローターをハブに密着させておくというところがミソの様です。ハブに対してローターが遊んでいる状態でキャリパーをゴギゴギ言わせながら取付けたりしているとローターが微妙に斜めになったりする、という様な話ではないかと想像します。このグレゴリーさんという人は大変真面目かつ親切な人で、とてもいい加減な事を言っているとは思えないので私としては「ほお、そういうものですか」と素直に了解するしかない訳です。まあ皆さんも騙されたと思って一度やってみて下さい。私ですか?私はそのような事をする必要がないのです。以前ローターを新品に交換した時、メカニックさんと相談してボルトを元のリベット穴に通してローターとスピンドルをナットで締め上げて固定したのです。ボルトのアタマはサンダーで削ってホイール取付面はツライチにしてあります。いやちょっと自慢したかっただけです。


(余談)なぜローターはリベット止めなのか?
 これについてはアメリカ人の言うには二つの理由があるそうです。

1)ローター込みでリアハブのバランスが取ってある
※ホンマかいなと思いますが時々この話を聞いたり読んだりしますので本当にやっていたのかもしれません。だから整備上の理由でリベットを取り去る時は「ローターとスピンドルの位置関係をマーキングしておけ」と皆さんおっしゃいます(確かショップマニュアルにもそう書いてあった)。で、再組み立ての時は必ず分解前と同じ穴に同じハブボルトが通る様に組立てなければならないそうです。

2)工場で組み立てやすいから
※ローターとスピンドルをひとつのアッシーとしておく事によりコルベットの製造工場での作業能率が上がる、という話です。案外こんなところが本当の理由かも知れません。でもセントルイス工場のオッサンたちは力持ちですね。




3) ハブベアリングにガタがある
 もしこれだとしたらそれはかなり恐い話になります。リアスピンドルベアリングのトラブルは深刻なものになる場合がありますのでエア噛みの心配の前にもっと別の心配をした方がいいでしょう。左図の通り、C3のローター&スピンドルは「スピンドルサポート」という部品にはめ込まれたベアリングによって支持されています。このベアリングのガタが進行してやがてボールレースまでが傷んだり粉砕したりするとスピンドルはいとも簡単に傾く訳ですね。C3のキャリパーはフローティングではありませんのでそのローターの「振れ」がヒドイ場合はローターがキャリパーに当って物凄い熱を出してブレーキからホイールからスピンドルからモウモウと煙りを出して「一巻の終わり」になる可能性があるのです。このハブベアリングに関しては別に解説しておりますのでそちらを御覧下さい。


●やっぱりローターが一番重要?
 そんな訳で以上、いくつかの理由で起こるローターの振れによってキャリパーはいとも簡単にエアを吸込んでしまうというお話でした。ローターの「振れ」がひき起こすキャリパーピストンの「ピストン運動またはポンピング運動」はキャリパーのシールの耐久テストをやっている様なものだと言えます。それでなくてもシールに問題のあるC3のキャリパーをそのような形で苛めるのは決して得策とは言えないでしょう。キャリパーの寿命を縮めている様なものですから。
 個人的な意見ですが、私はこのローターの問題はC3のブレーキトラブルの中でも根幹に関わる問題だと考えています。いくらキャリパーを交換しても、マスターシリンダーを交換しても、いくらエア抜きを繰り返しても、ローターがダメだと結局根本的な解決には至らないのではないでしょうか。少なくとも私の場合はそうでした。ブレーキローターの全交換、というと結構おおごとになりますがローターの精度が出ていて初めて他のブレーキ部品を直していく意味がある、という風に自分の中では結論づけています。

 次はC3のブレーキトラブルで2番目に重要と思える「簡単にエアを吸込んでしまうキャリパー」がどんな仕組みになっているのかを見てみたいと思います。