VIN余話
●VINコードはアメリカの法律で定められたものだった
 私はアメリカの車は殆どGM系のコルベット、カマロ、トランザムくらいしか乗ったことがありません(未だにフォードに乗った事が無い)。その全てにVINコードがありましたので私は何年か前は、お恥ずかしい事に「VINってのはGMの識別記号なのかな?」と思っておりました。ところがある時マニュアルを読んでおりますと「VINは車輛の法定識別記号」だと書いてあるではありませんか。その時点でVINとはアメリカの法律で定められた識別表記法だという事に初めて気付いた次第です。

●VINコードとは?
 "Catalog of Corvette ID Numbers (published by Amos Press-Cars & Parts Magazine)という本によるとアメリカの法律改正でこの"VIN"という呼称が出来たのは1970年の事だそうです。VINとは"Vehicle Identification Number"の略です。それまでは今で言う"VIN PLATE"の事を「シリアルプレート」という風に呼んでいたそうです。ですからそのプレート上に刻印してある番号は「シリアルナンバー」または「シリアルID」と呼んでいた訳ですね。で、法律改正後はみんなが"VIN"という呼称を使う様になりましたので、今では遡って、例えば1953年製コルベットの「シリアルプレート」でも「このクルマのVINコードは・・」という風に言うようになったそうです。別に誰も「いや1969年以前はVINコードという言葉ではなくシリアルナンバーという言葉を使っていただきたいぞなもし」という様に異を唱えたりはしないそうです。

 で、それが今では妙に広がってGMのショップマニュアルを読んでいてもエンジンのシリアルナンバーも「Engine VIN」という言い方をしますしトランスミッションまでそのシリアルナンバーをVINと呼んでいる様です。決して"Engine Identification Number"で"EIN"とか"Transmission"で"TIN"とかは呼ばない様です。多分"VIN"という言葉が「識別番号」くらいの意味合いの一般名詞として一人歩きを始めてしまったのでしょうね。

●VINの法的強制力は侮れない
 今回調べて分かった事ですが、VIN規格を運用・管理しているのはアメリカにおいてはNHTSA(National Highway Traffic Safety Administration-国家高速道運行安全局といったところか)というお役所でこれの法的強制力が非常に強力の様です。つまり「およそ公共の道路上を走る乗り物でVIN表示のないクルマを走らせたらそんなクルマ、取り上げるぞ」という程の強制力がある様です。

 前出の本にここらの事情を示す面白い出来事の話が載っていました。1960年あたりまではC1コルベットのシリアルプレート(今で言うVINプレート)は2本のプラスネジで止めてあるだけだったそうです。これが結構なトラブルの種になったそうです。それは1990年くらいの出来事だそうですが、1950年代のC1が道を走っていて検問で止められました。で、検査官が「一応規則だからね」とVINプレートを見ると何とプラスネジで止めてあるだけ。「こんな馬鹿な話があるか」とそのC1はその場で没収されてしまったそうです。おまけにクルマを没収された土地近辺のマヌケな専門家に「こりゃ安っぽいニセ物のプレートだな」と決めつけられてしまってオーナーは自分のクルマを当局から貰い出すのにそのプレートがオリジナルのものであることを証明しなければならず、相当苦労したそうです(ちなみにVINのFederal Regulationsには「VINプレートは通常の修理程度の作業で外せる様な位置、止め方ではいかん」と明記してあります。だから1990年頃の基準で判断するとネジで止めただけのVINプレートというものは偽造品か盗難品の様に考えられてしまう訳です)。

   その「クルマを没収するほどの強制力のある」VINを制定している文書(連邦規格)をネット上で見つけましたので一部訳してみました。ヒマな人は眺めてみて下さい。最大の収穫?は今までどの本を読んでも何の事やらわからなかった"Check Digit"の由来がこの書類に明記してあった事です。1981、1982年のC3オーナーでヒマを持て余している方はこの文書に書いてある方法で自分のクルマのVINのチェックディジットを計算して実際のVINコードと一致する事を確かめてひとり感心してみるのもいいでしょう。電卓を使用しなければ10〜20分くらいヒマがつぶせます。

●ISOでもVINは制定されている
 で今回、VINの事をもうちょっと調べてみましたら何とVINはISOの規格でもあることが判りました。コルベットの(アメリカ車の)VINは1981年から大きく表記法が変わっていますがどうもこれはISOとの協調?に関係ありそうです。ISOの事が書いてあるウェブページを読むとISOにおいてVINは"ISO 3779"なる規格で1977年に制定されているそうです(最終改訂が1983年とあります)。ちょっと読んでみると全17ケタである点、先頭にWMI (World Manufacuturer Identifier) を使用する点、9ケタ目がチェックディジットである点などかなりアメリカ車のVINに似ています。ただEU圏内においてはイヤーコード、ファクトリーコードは必須ではない、などの違うところもあります。

 ですからこれは私の想像なのですがクルマ産業がだんだんワールドワイドになってきてアメリカに輸入車も物凄く増えたしシリアルプレートも各社テキトーに自社の方針だけで作るのでは無く何かこう、もうちょっと統一された表示にした方が何かと便利なんではないかい?という動きがあったのではないでしょうか。また前述のVINを制定している連邦規格によるとアメリカ合衆国に輸入されたクルマにはVINの代用として必ずこれこれこういう事を書いたプレートを貼付しなければならん、とか面倒な取り決めごとがあるのでそれならいっそ各社最初からVINを表示しておけばアメリカに輸出する時の面倒が少ないじゃ無いか、という動きがあっても不思議では無いと思います。で、その辺で「最初のヒトケタは生産地域にしましょうや」とか「それも含めて最初の3ケタで製造業者も判るようにしましょうや」というようなツメを1970年代後半に行ったのではないでしょうか。で、ISOにおいては1977年にそれが制定された、と。で製造業者側に対する移行猶予措置期間が暫くあって、アメリカにおいては1981年をもって17ケタのVINに移行した、と。まあこんな想像をしてみるのも楽しいものです。ただ印象としてはヨーロッパでは余り熱心でないというか、今一つアメリカほど厳格にVINを運用していない様子です。ひょっとしたらアメリカ側が音頭をとって「全世界のメーカーがアメリカのやり方にならえ!」とISOに働きかけたのかも知れません。で、EUのメーカーなんかはイヤイヤ従っている、と。ISO規格のVINの運用がややいい加減なのでそんな風にも思う訳です。

 そんな事を考えていたら先日知り合いの自動車屋さんに真新しいベンツのセダンが入庫していました。「ねえ、ベンツでVIN見た事ある?」と尋ねたところ「えっ、VINってアメ車だけと違うのか?」と言いながらも探してくれました。そうしたらドアを開けたところにありました。"WDB2100612A9*****"という全17ケタの紛う事なきVINです。WMIを調べると間違い無くベンツでした。日本車はどうなんでしょうか?日本車のメカニックの人に聞くとそんな番号見た事ないと言います(メーカー独自の製造番号はあるが)。でもWMIを見るとトヨタにもホンダにもちゃんとコードの割り当てがありますので多分アメリカに輸出するクルマにはVINの記載があるんではないか、というのが私の推測。どなたかこの辺りの事情を御存じの方、是非お教え下さい。

●WMIとは
 で、1977年のISO 3779制定時に合わせてISO 3780とかいう規格で"WMI"というものが取り決められました。"WMI"とは"World Manufacturer Identifier"、つまり「世界の製造業者の識別記号」とも言うべきものです。17ケタのVINの最初の3文字(場合によっては6文字)がこれに相当します。ここらでちょっとアメリカとEUとのVINが微妙に違っているのですが、例えばアメリカでは最初の1ケタ、数字の"1"が「アメリカ」という国を表していてあとはいきなり"G"と来たらGMか、その次に"1"が来たらこりゃシボレーだな、というディビジョンまでを表してしまいますが、EUにおいては最初の1ケタは「エリア」を表していたり「国」を表していたりちょっと統一が取れていない様なのです。2番目が特定の国かメーカー名、3番目にやっと製造業者名になります。例えば英国のジャガーのWMIを例にとりますと、

(例) S A J
S=Europe / SA= United Kingdom / SAJ= Jaguar

という具合ですね。でも例外もあって例えばドイツの車は同じヨーロッパでも全部"W"で始まっている様ですしイタリアの車は全部"Z"で始まっている様です。また同じ17ケタでもその何ケタ目にどんな内容を持ってくるかも統一がとれていません。例えばポルシェとフェラーリではエンジン形式を表す文字を入れるケタ数が全然違います。"WMI"と"Check Digit"の位置だけ決めておいてあとはメーカーごとテキトーに運用している様子で何だか結構いい加減な感じもあるのですが、ここらも「アメリカの規格を世界に押し付けたヒズミが出ているのでは無いか?」と思わせるゆえんです。アメリカ人は"WMI"と言わずただ"MI"と言っているようです。取りあえずアメリカ以外の事はあまり普段意識していないんでしょうか?アメリカ人は人権問題でも自然保護の問題でもエラそうに何でも口を出して他人に強制する癖に根っこでは自分の国の事しか考えていないという悪癖がありますが、これもそれなんでしょうかね?
 ちなみにここらのVINやWMIの詳しい話はこのページを参考にするといいでしょう。私はWMIの詳しい資料が欲しいなと思ってこのページのオーナーのIan Fuller(イアン・フューラー)さんにどこで入手出来るのか尋ねてみました。すると「私もそのリストが欲しいと思ってアメリカでそのリストを管理しているNHTSA(国家高速道運行安全局)に尋ねたのですが、そうしたら彼らはそのリストはオンライン上では公開していなくて、年会費300ドルで頒布しています、と言うんですね。これは高すぎます。まあWMIについては私のウェブ及びリンクを参考にして下さい」とのことでした。
 イアンさんのページにはイアンさんの調べたWMIの一覧表があって「1G2はPontiac」とか「1G4はビュイック」とかが判ってなかなか興味深いです。またそれらの表を見ているとGMは日本の藤沢市に工場コードの割り当てを持っていたり、色々と不思議なデータでもあります。これは勝手に転載する訳にはいかないので興味のある方はイアンさんのページに各自見にいって下さい。一見の価値ありです。

●まとめ?
 そんな訳でVINの成り立ちについて私ゴ・ホンダは大体以下の様なものと推測するに至りました。

1)そもそも大昔は各メーカーごとのただの識別番号だった

2)その内容も最初はメーカーの名前の入った銘板に製造番号を刻印した程度のノドカなものだったと思われる

3)ところが段々メーカーの統廃合やら生産台数の増加、工場数の増加などの要因が重なって年式や工場名やディビジョン(元々は別のメーカーだったが合併して名前がディビジョンとして残った)も判別出来るようにしておかないと何がなんだかわからないからケタ数を増やしてそれに対応した

4)そうこうするうちに政府が乗り出してきて「オメーラ各社バラバラの事しとらんとちっとは統一せんかい!」と叱られて仕方なくナンバー表記法を統一した

5)こんな事をしているうちに1970年についに連邦規格が出来て今まで「シリアルナンバー」と呼んでいたものが「いいか、今日からVINって言う名前にするからな。もうシリアルナンバーとか言うなよ」と政府に通告された

6)で、やっと落ち着いたと思ったら今度はアメリカ国内が輸入車だらけになった。こいつらには"VIN"というものがついてなくて怪し気な銘板にVINとは全く関係の無い数字が刻印されているだけだった。特に日本車にはこの世の文字とは思えない刻印がしてあった(『クハ-21』とかね)

7)アメリカの役人は怒った。「テメーラ、アメリカ国内走るならVINをつけろ!」

8)外国のメーカーは言った。「VINって何ですかぁ?」

9)アメリカの役人は呆れた。こいつらは我が偉大なるアメリカの使用しているVINすら知らずに車を造っているらしい。何と言うトンマだ。これはこいつらにVINの素晴らしさを教えてやらねば、と思った

10)ところが良く考えたら会社名を表す数字の割り当てが不足していてもう余分がないのだった

11)だが何としてもVINの上で生産国まで特定出来るようにしなければならない。そこでアメリカの役人は考えた。「ケタ数を増やせばいいじゃないか!」

12)そこでアメリカの役人は最初の3ケタで理論的に世界中の全てのメーカーを表せると考えた、というのは真っ赤なウソで「わが偉大なるアメリカの国番号は"1"に決まっておる!であとはメーカー名とディビジョンがわからなきゃいけないからエート、イチ、ニイ、サン、そっか、前から3ケタあればウチは問題ないな」という極めて自己本位な決め方をした。

13)アメリカの役人はSAEを通じてISOに「オイ、我が偉大なるアメリカは始めの3ケタで国とメーカー名を表す、ってもう決めちゃったからな。あと『1』の数字ももう貰っちゃったからな。あとはテメーラで3ケタでとにかく全ての国とメーカーを表すように考えろ。それで全部で17ケタな。これは絶対守れよ。それからちゃんと年式とか車のタイプが判るように考えとけよ」と言った。

14)エーッ、そんな無茶な、とISO側では思ったが無理矢理にでもVINを使用しないと「テメーラの車、アメリカに輸出できると思うなよ」と脅迫されていたのでシブシブ従った。アメリカに車を輸出できない事は多くのEUのメーカーにとっては死活問題だったからである

15)だからISOのVINに関する資料を読んでいると「最初の3ケタの文字の使用についてはアメリカにおいてはSAEの管理の元に独自の運用が許されている」という意味の表現があるがこれはヨーロッパ人独特の皮肉な表現で事実は全く逆なのである。あくまでアメリカが勝手に「3ケタ」でこれはシボレー、これはキャディラック、こいつはダッジ、とか決めてしまってからEUの皆さんに「ウチはWMIを最初の3ケタでいくことに決めたからオメーラも最初の3ケタで全てのメーカーを表すように工夫しろよ」と強制したのである。自分の国だけ「最初の数字が1ならそれはアメリカ合衆国、で、隣のカナダには2を使おう」と厳密に決めておいて後の国の決め方と言ったら最初の1ケタはいきなり「アフリカ」とか「アジア」とか「ヨーロッパ」とかいうおよそ精密さとは無縁な茫漠たる地球的規模の分け方で2ケタ目でやっと特定の国番号になる。こんな不公平があるか!という感じである。

16)そこでISOの方でもどうしてもいい方法が思いつかなかったので反撃に出た。それは「テキトーに決めてテキトーに運用する」という方法である。それが何より証拠には今でもEUのVINで明確なのは国とメーカー名くらいで、年式や車種明示についてさえも実はアヤフヤなまま今日まで、つまり1977年の制定時から22年間もノラリクラリと嫌々運用しているのである。現在でもEUにおいてはVINの中での年式の明示、車種の明示を必ずしも義務としていない、等の事実がそのことを赤裸々に語っていると言えよう

17)だがアメリカ人は根本的なところでバカな部分があるのでEU諸国のVINをざっと見てそれが17ケタであるのを確認して「まあ、奴らも規則は守ってんだろう。やつらも我がアメリカの言う事に逆らう程バカではないという事だな」くらいに考えてそれがほとんど意味の無い数字の羅列である事に22年間気付いていないのである。そのくせ事あるごとに「オレたちがヤツらにVINを教えてやった」と得々として語るのである。アメリカ人はホントにめでたい。だがこれで世界がまるく収まるならそれでいいのである。トヨタやホンダは無定見なので「アメリカではVIN使えよ」と言われたら「へいへい」と素直にテキトーな番号を打って輸出している。日本人は結構ISOとか平気で無視するので日本国内向けには「VINなんてやってられっかよバーロー!」と相変わらずエンジンルームに「クハ-21」とか打っているのである(電車じゃないって)。

これがVINの真実なのである。厳格なようでいて実は大して意味の無いロクでもない数字の羅列。アメリカが勝手に自分の都合で決めた規格。EU諸国が嫌々かついい加減につきあっている規格。後世のコレクターや好事家から「おお、このVINナンバーはまさしく83年式セントルイス工場製のC3コルベットでエンジンはLS-6!(そんな車無いって)」とか言われる程度の意味しか無い規格、それこそがVINなのである。

(以上はもちろん私の個人的な推測であることをお断りしておきます)